Kamonoha World

日々の研究や日常の一部、読んだもののノート的なものです。メタ倫理学が中心です。

Pekka Vayrynen. The Lewd, the Rude and the Nasty: A Study of Thick Concepts in Ethics (2013)

Vayrynenによるいわゆる厚い概念に関する単著。

Vayrynenの主張:「猥褻」「無礼」「不愉快」などと呼ばれるものは通常否定的な評価を受けるが、このような否定的な評価は我々がこれらの概念を使って思考するのに本質的ではない。つまり、猥褻であってもそれが本質的に悪いわけではない、ということになる。厚い概念は、その意味によって、常に同じような評価を受けるわけではなく、我々がこれらの概念を用いてコミュニケーションを取るための1つの機能としてプラグマティックにそのように想定されているにすぎないもの。

厚い概念が道徳哲学において問題になる理由:価値的なものの無形性(shapelessness)、一般的に考えられている厚い概念が持つ記述的な側面と価値的な側面の分離の不可能性、これらが持ついわゆる価値と事実の区別、倫理における客観性、価値についての思考などに関する含意。

これらは全て、厚い道徳語、道徳概念は、その意味によって価値的な要素を含む、との想定の上に成り立っている。

Vayrynenはこの主張への反論を試みる。もし反論が正しかったとすると、厚い概念は期待されていたような重要性を持たないということになる。彼の方法は、言語学言語哲学で論じられている知見を活用するというもの。

価値的な要素と非価値的な要素の不可分性について:非認知主義や表出主義に対する反論として使われる。

*厚い概念に関する還元主義と非還元主義(Roberts 2011を参照):

還元主義:厚い概念は、価値的な部分と、非価値的な部分に、分離できる。勇敢さも、価値的な部分と、非価値的な部分に、分離できる。その上で、価値的な部分は非価値的な部分によって(in virtue of)成り立っている、ということになる。例:ある人が勇敢である⇒その人は、畏れを克服する人であり、そしてそれによって、良い人である

非還元主義:両者は、非価値的な要素と、薄い価値的な要素に、分離できない。ある人が勇敢である⇒その人は、ある非価値的な要素を持っており、それによって良い、そして、その人がその非価値的な要素によって良いか否かは状況・文脈による(Hare的な普遍化可能性の否定)

不分離のための論証:両者が分離できるとすると、厚い概念を巡る価値的な側面について同意できていない人であっても、非価値的な側面のみによって厚い概念の外延を知ることができるはず(Hareなど。もしpという非価値的なものを持つ行為を悪いと判断した場合、我々は他のものがpを持っていた場合もそれを悪いと判断すべきということになる)。だがそれはできないと思われる。なぜなら、ある厚い概念の外延は、その概念の価値的な要素を受け入れていなければ決めることができないと思われるから。【終わり】

*コメント:典型的な反論は個別主義。ただ、価値的な要素に関して不同意があるとしても、相手がどのような概念の理解をしているのかわかればその人がある概念の外延がどのようなものであるのか想定していることはわかるし、そもそも外延についての不同意があるということになるのではないか?

無形性について:価値的な概念は非価値的には無形である(McDowell)、この考えが意味するところは、ある価値的な概念が無形であるということは、その価値概念が適応される異なる対象の間に共通の非価値的な特徴がないということ[たしかに、薄い概念についてはそんな気がする、厚い概念についてもそんな気がしなくもない]、にも関わらずあるグループの行為が勇敢だと分類できるというのは、その分類で使われている概念が価値的なものであるということ⇒この考えのターゲットは、価値に関する分類があった場合、それに対応する非価値的な分類がある、という考え。還元主義への反論ということになる。

第2章:厚い概念、意味、評価

評価は、あるものが、ある仕方で良いもしくは悪いという情報を示すこと。

ある語の意味とは、その語の通常の文脈での使われ方についての制限・規約(constraints)を含んでいる。

グローバルな評価と埋め込まれた評価:まだ示されてはいないがそれが適応されるものはある一定の価値的な情報を持つという考えと、すでに良いもの(悪いものとして)として示されているあるタイプのものがある一定の評価を持つという考え

第3章・第4章:意味論説への反論

言語学からの様々な知見によると、厚い概念によって示された評価は常に疑問視することができるものとされる。

第5章:実用説の擁護

ある形態の実用説は擁護することができる。

第6章:グローバルな評価がどのような仕方で想定されているのか、実用説でも説明できる。

第7章:厚い概念と決定不全性

グローバルな評価がその概念の外延を決定するのに必要であるとの議論について。特に、厚い概念の非価値的な要素と埋め込まれた評価の部分だけでは、外延について決定不全性を起こす、という点について。

第8章:無形性、分離性、そして非還元的な厚さ

無形性や分離性などの厚い概念に関してよく語られている現象は、この概念が倫理学において想定されているような重要な役割を果たすということを前提にしなくても説明することができる。

第9章:厚い概念と変数性

厚い概念が文脈依存的な変数性を持っているのであれば、厚い概念の価値的な要素がその意味によって決定されているということはない、との考えについて。